2012年10月10日水曜日

群像劇 Cluster Workshop


Cluster Workshopとは、2015年にミラノで開催される万国博覧会のため、
2012年9月〜10月に行われた学生ワークショップである。

ミラノ工科大をホストとして世界各国から集まった学生が設計を行った。
学生にコンペティション形式の設計課題を出題してその成果物を実際のエキスポ会場のコンセプトデザインに活かそうという考えである。

イタリア国内からはミラノ工科大以外にもナポリ、ヴェネツィアなども学生を派遣していた。
南アフリカ、イスラエル、パレスチナなど普段お目にかかることの少ない国の学生もいて国際色がゆたかだった。

実際の活動はイタリア+2カ国の学生で”クラスター”が作られその中で行われた。
この”クラスター”というのがタイトルになっている通りキモである。

今回のエキスポのマスタープランは、
これまでのそれぞれの国を誇示するようなパヴィリオンが並ぶ万博会場に対して、
アンチ・テーゼとして”クラスター”と言う概念を導入している。

食をテーマとするこの万博の趣旨に沿って各クラスターには「米」「カカオ」など食にまつわるテーマが設定されて、
それに相応しい国がそのクラスターの中に入りパヴィリオンをもつ。

クラスターは地域や経済的な開発度合いとはほとんど関係なく設定されており、
金銭的に余裕のない国がジョイント・パヴィリオンを持つのとは異なる。

”クラスター”は群像として表れることを期待されているがそれは大きなひとつのボリュームとなるということとは違う。
大屋根でつなぐような解決方法ではない形で全体性を持たせつつ11m角のヴォリュームが立ち並ぶ群像を創ることが求められた。


日本からは東大の大学院生が参加し、
フィンランドのアアルト大学の建築とプロダクトデザインの学生とミラノ工科大の学生で混成チーム3グループで作業した。
このクラスターのテーマは"Sea and Islands"で太平洋・インド洋・カリブ海と世界中に散らばった17カ国の候補のうち幾つかが入る予定である。

実際に入居(?)する国が未定な上、
他のクラスターと違い食材そのものをテーマとはしておらず(漁業が未開発もあり安易にシーフードをテーマにはできない)かなり厄介な設定だった。

おまけに何人かの学生が全くグループワークをやるつもりがなく、
ひたすら自己主張だけして挙句、勝手にプレゼンテーションを変えてしまったりととんでもなことをしてくれた。

ワークショップの運営に関して改善策をかんがえると、

  1. 事前にポートフォリオレビューをして、誰が何をできるのか把握してから作業に当たる。
  2. きちんとリーダーをきめて(あるいはTAがコントロールして)作業をすすめる。
  3. プロダクトデザインやインテリアデザインの学生を無理に建築デザインに巻き込まない。
  4. 模型製作の道具を提供するor参加者に持て来てもらう(当たり前だ)


今回は何人かのミラノ工科大学生にも問題があったように感じる。

エンジニアとしてのプライドを持っているらしく、

「ヨソの大学を出るイタリアのアーキテクトはお絵描きだけで建物のことなんか全然わかってないんだ。
俺達はエンジニアでアーキテクトだからどっちもちゃんとわかってるんだぜ!」

と誇らしげに言っていたが、構造や環境、構法的な知識をいくら詰め込んでも優れたアーキテクトにはなれないのではないか
(知識だけでは優れたエンジニアにもなれまい)。

建築デザインは技術を寄せ集めてできるのではなく、
一貫した価値基準をもって様々な与件を解きながら強い魅力を感じさせる価値観を提示することが肝心だと、
少なくとも私は思う。

矩計図をガリガリ描くのはいいが、全体のデザインで魅せたい部分を無視しては意味が無い。
まして詳細図を描くことに満足していて描くに際して全く考えていないでは困る。

自分で収まりを考えないで描いて何の意味があるのか。
(変なところで根太が切れていたり、二次部材を取り付ける金物が変なところに出てきたり…)

意匠設計の能力に関しては修士2年の学生で日本の3年生程度の実力しかなかった。
同じクラスターに入っていた学生だけが偶然そうなのかもしれないがかなり心配な傾向だ。

TAの何人かも学生としては優秀なのかもしれないがグループワークでプロジェクトをまとめる際のノウハウがまるでなっておらず、
役割の分担の仕方や時間管理(段取り)が下手だった。

あまり愚痴ってもしょうがないが色々とストレスがたまる。
ともかくも一部の学生に破壊されたとはいえ最終成果物を出せて良かった。